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2006年11月20日 (月)

『Breath Less』迷言集 vol.8

 本館にアランの『幸福論』を持ち出したのでこのシーン。

○S#54 活魚割烹

 恵美子「才能ないの分かってる」
  服 部「また美術館のハシゴをしよう」
  恵美子「諦める勇気がないだけ……」
  服 部「悲観は気分、楽観は意志に属するっていうよ。結果を怖れてたら
      何もできない」
  恵美子「……ありがとう」

『幸福論』の最後にアランは書いています。
「悲観主義は気分に属し、楽観主義は意志に属する」(白井健三郎訳)
 ため息を吐きながら、時々ぼくはこの言葉を自分に言い聞かせます。

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コメント

自信を失って、恋人に甘えたい心境の女性なら、このタイミングで「ありがとう」は言わないのでは?
「大丈夫だよ」ともっと言ってもらいたくて、「私はもうダメ」をもっともっと繰り返すと思います。
女性は(少なくとも私は)、こんな夜はとことん彼の優しい言葉に反抗してしまうだろうと・・・もちろん心の中で「ありがとう」と言っているとは思いますが。

投稿: shiron | 2006年11月22日 (水) 06時53分

○shironさん、
 どうもありがとう。

 ↑この「ありがとう」は、いわば直球です。
 しかし言葉には変化球もありますね。
 脚本では「……ありがとう」と書きました。「……」には恵美子のどんな心境がこめられているのか、脚本家が俳優と監督に対して投げかけているのです。
 少なくともありがたいと思ったからストレートにありがとうと言ったのではありません。

 もうひとつ。確かに恵美子は自信を失っていた。しかし、恋人に甘えたい心境にあったとは思えません。甘えたくても素直に甘えられない心の扉が、服部に対してもあったのではないでしょうか。

 むしろ服部の「暗い方にばかり考えちゃ駄目だ」とか「結果を怖れていたら何もできない」という単純すぎる忠告が疎ましくさえあったかもしれません。
 とすると「……ありがとう」は、感謝もあるけれど、もうこの話はやめましょうという気持ちも入っていたかもしれません。

 だからこの台詞のカットは、格子戸越しに撮りました。恵美子の心の扉です。
 このあとその扉を徹が開くことになります。

 恵美子にとって絵を描きたいというのは真剣なものだった。しかし若さゆえか、その真剣ささえ甘いものだった。彼女はそこに気づき始めているのだと思います。
 しかし恵美子にとっては、絵を諦めるべきかもしれないというのはたいへん深刻な問題であったことには違いないのです。
 それに、人に不幸が押し寄せる時って、たいてい、ひとつだけじゃなくて2つ3つと重なってやってきますよね。
 恵美子もそういう苦悩の時だったのですね。

投稿: 渡辺寿 | 2006年11月22日 (水) 16時53分

監督、納得です。
5回も見たくせに、恵美子の「…ありがとう」は全く記憶にない台詞でした。
この迷言集を読んで、初めて存在に気付いたのです。
どうしてお礼なんて言っているの?って感じで思わず書込みしましたが・・・
そうですよね。
悩んで自分の頭で考えている時、他人の助言ほど鬱陶しいものはありません。

この後、徹が取って付けたような明るさで「いや~死ぬ前にもう一度会いたいと思って」と座り込み、ペンギンの話を始める辺りを、是非お願いします。面白い場面なのに、恵美子の微妙な表情ばかり見ていて、徹の台詞をちゃんと聞いていないのです。

投稿: shiron | 2006年11月22日 (水) 23時06分

○shironさん、
 了解しました。
 今夜(日付が変わる頃)、書き込みます。
 でも徹は、「取って付けたような明るさ」で扉を開けたのではありません。
 乗り越えてきたのです。店の表に出て、考えて、ブルースハープをひと吹きして、常識ではここで引き下がるべきだけれども、いま一歩踏み込んでみようと。
 だから「乗り越えた明るさ」なのです。
 人には、時として、乗り越えた明るさが必要なときがあります。

投稿: 渡辺寿 | 2006年11月23日 (木) 14時33分

 どうしても「Breath Less」が観たくて、富山から22日に大阪へ行ってさっき帰ってきました。
パンフレットも取り寄せてずっと待っていたので、今は最高に幸せです。
 どのシーンも、どの台詞も(聞き漏らした台詞あるので、迷言集、感謝です)心に沁みたけど、最後の徹と親父のシーンで徹が泣くところ、あそこはいろんな事思ったなあ。
ラストの看板のシーンは、なんか嬉しくなりましたね。
筒井さんも、本当に橘徹が好きなんだろなあ、って思ったし。
この気持ち上手く言葉にできないけれど(こんな台詞もありましたよね)、もっともっと何回も観たいと思いました、本当に。ありがとうございました。

投稿: HIROKO | 2006年11月23日 (木) 22時55分

○HIROKOさん、
 お礼を言わなければならないのはぼくのほうです。
 ほんとうにありがとうございました。
 富山~大阪間をぼくは旅したことないけれど、特急を利用しても4時間はかかるんじゃないでしょうか。それに映画が終わった時刻にはもう電車がなくて……。
 たいへんでしたねえ。
 心より御礼申しあげます。
 このブログには繰り返し書いていることですが、映画は最終的には観てくださった方お一人おひとりのものです。HIROKOさんの心の中で、徹や恵美子が生き続けてくれるとうれしいです。
 ありがとうございました。

投稿: 渡辺寿 | 2006年11月23日 (木) 23時40分

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